プシッタコサウルス

プシッタコサウルス

Psittacosaurus

プシッタコサウルスとは

学名(属名) Psittacosaurus
名前の意味 オウム(鳥類)トカゲ
psittakos(オウム)[ギリシャ語]-saurus(トカゲ)[ギリシャ語]
分類 鳥盤目・周飾頭類(周飾頭亜目・角竜下目)
全長 約1 - 2m
食性 植物食
生息時期 白亜紀前期(1億2000万年-9700万年前)
下分類・種名 Psittacosaurus mongoliensis
Psittacosaurus sinensis
Psittacosaurus meileyingensis
Psittacosaurus ordosensis
Psittacosaurus gobiensis
etc...
論文記載年 1923
記載論文 Two Lower Cretaceous dinosaurs of Mongolia.
American Museum Novitates. 95.
by Osborn, Henry F. 1923.

特徴

プシッタコサウルスは初期の角竜類です。角もフリルもなく、2足歩行をしていました。
かつては"角竜類の祖先"と考えられていましたが、指の数や上顎の特徴など他の角竜とは異なる特徴が多く、現在では「初期に枝分かれした角竜の支流で、独自に進化した属」と考えられるようになりました。

プシッタコサウルスの全身骨格化石
全身骨格化石(2017年撮影)

草を集めるのに適した細長い指と、角竜特有の丈夫なクチバシを持っていました。堅い木・葉・種子を食べたと考えられています。イチョウの産地で発見されることが多く、銀杏を食べていたかも知れません。

2007年、プシッタコサウルスの前脚の機能について研究を行った論文が発表されています。前脚は地面には届かず、ほぼ完全に2足歩行であったことを示唆しています。クチバシまで植物を運ぶのにも、可動域が小さくて役には立たなかったようです。

プシッタコサウルスの切手

「草を集めるだけの前脚?何のための前脚?」

ブリストル大学(University of Bristol)の趙(Qi Zhao)は、2013年、プシッタコサウルス16体の標本を比較検討した結果を発表しています。世界的な科学誌NATUREに寄稿された論文"How ‘parrot dinosaur’ switched from four feet to two as it grew."によると、出生してから3歳ごろまでは前肢の成長が早く、4歳-6歳では前肢の成長はほぼ止まり後脚の成長が加速する傾向がみられたそうです。「プシッタコサウルスは4歳ごろまでは4足歩行を行い、後脚の発達に伴って2足歩行に移行した」と結論づけています。

トリケラトプスなどのように発達した角竜にみられる"デンタルバッテリー構造"はありませんでした。

プシッタコサウルスのイラスト
プシッタコサウルスのイラスト

子供たちだけの集団化石

2002年、中国Yixian Formationでプシッタコサウルスの子供34体と、それより少し大きな個体1体が一緒に埋まっている化石が発見されました。当初、これは「親が子供たちの面倒を見ていた巣の化石」と考えられました。

プシッタコサウルスの巣化石
プシッタコサウルスの巣化石(2004年撮影)
亜成体1体と幼体34体の集合化石 - 中国Yixian Formationで発見された標本番号DNHM D2156

しかし、その後の詳細な研究で、一緒にいた大きな個体もまだ子供を産める年齢ではない若い個体(亜成体)であったことが判明しました。また、化石が発見された状況から、彼らは巣にいたのではなく、火山泥流のような急な災害に巻き込まれて一度に死んでしまった可能性が高いと考えられるようになりました。子供の平均体長は23cmだったそうです。

現在では、これは「親子の巣」ではなく、子供たちが親からある程度独立し、自分たちだけの集団(保育群、crèche)を作って生活していたところを、災害が襲った現場ではないか、という説が有力です。これは、プシッタコサウルスが高度な社会性を持っていた可能性を示唆しています。

プシッタコサウルスの切手

尻尾の奇妙な毛の正体

プシッタコサウルス尾の管状の剛毛(ケラチン質のトゲ)
プシッタコサウルス尾の管状の剛毛(ケラチン質のトゲ)(2012年撮影)

プシッタコサウルスの最も奇妙な特徴の一つが、尾の上部に生えた、長くて硬い毛のような構造物です。これは鳥類の羽毛とは異なり、中が空洞になった、ヤマアラシの針のような管状の剛毛(ケラチン質のトゲ)でした。

この剛毛は、鳥盤類の中でもごく一部の系統にしか見られないユニークな特徴で、体温を保つためではなく、仲間を見分けたり、異性にアピールしたりするためのディスプレイだったと考えられています。

奇跡の化石が明かす「生きていた頃の姿」

ドイツのゼンケンベルク自然史博物館(The Senckenberg Natural History Museum)に所蔵されている、皮膚の組織まで立体的に保存された奇跡的なプシッタコサウルスの化石は、これまで知らなかった、恐竜の姿を私たちに教えてくれました。

全身骨格化石(2019年撮影) at ゼンケンベルク自然史博物館(The Senckenberg Natural History Museum)
全身骨格化石(2019年撮影) at ゼンケンベルク自然史博物館(The Senckenberg Natural History Museum)

本物の体色とカモフラージュ

2016年、ジェイコブ・ヴィンサー博士らの研究チームは、この化石に残された色素の痕跡(メラノソーム)を分析し、プシッタコサウルスの本物の体色を科学的に復元することに成功しました。その結果、背中側が濃い茶色で、お腹側にかけて色が薄くなる「カウンターシェーディング」と呼ばれる配色だったことが判明しました。これは、森林などの木漏れ日が差す環境で、体の影を消して敵から見つかりにくくする、典型的なカモフラージュ(保護色)です。

恐竜史上初!お尻の穴の復元

さらに2021年、同じ研究チームは、この化石から恐竜史上初めて、お尻の穴(総排泄口)の形状を復元したと発表し、世界中の注目を集めました。その形状は鳥類やワニと似ていましたが、両脇が色素で濃く着色されていたことから、現代のヒヒのように、視覚的なディスプレイ(仲間へのアピール)にも使われていた可能性が指摘されています。この発見は、恐竜の軟組織に関する我々の知識を飛躍的に向上させるものでした。

発見と論文記載

アメリカ自然史博物館が行った3回目のモンゴル発掘調査で、調査隊のメンバだったウォン(Wong)はほぼ完全な骨格標本(標本番号AMNH 6254)を発見しました。1923年、アメリカの古生物学者ヘンリー・オズボーン(Henry Fairfield Osborn)は、新属新種プシッタコサウルス(Psittacosaurus mongoliensis)を記載します。

プシッタコサウルスの頭骨スケッチ(記載論文)
プシッタコサウルスの頭骨(標本番号AMNH 6254)スケッチ-記載論文抜粋(1923年)
出典:Two Lower Cretaceous dinosaurs of Mongolia. American Museum Novitates. 95. by Osborn, Henry F. 1923.

1950年代以降、中国とモンゴル、ロシアを中心に数百ほどの標本が発掘されており、主に頭骨と歯の特徴・違いにより9-11種が有効種として数えられています。

プシッタコサウルスの全身骨格化石
全身骨格化石(2008年撮影)