羽毛恐竜とは
お勉強 / 恐竜のしっぽ
羽毛恐竜とは
羽毛恐竜とは、化石に羽毛の痕跡が残された恐竜のことをいいます。「羽毛恐竜」という学術的な分類がある訳ではなく、「羽毛の痕跡のある恐竜」の総称として使われています。
現在では、20属以上の恐竜に羽毛の痕跡が見つかっています。
「鳥は恐竜類です。」
現在では、広く受け容れられている定説です。
現生鳥類は分岐分類学において"恐竜(上目)"に属していますが、鳩やインコのことを「羽毛恐竜」とは呼びません。
一般的には、恐竜から鳥類を除いたグループのことを「恐竜」とイメージしているひとが多いからです。
専門書などでは、正確を期して「非鳥類型恐竜類」と注釈・前置きすることが多くなっています。当サイトでも「非鳥類型恐竜」のことを掲載しています。
羽毛の役割
うろこが特殊化したことで羽毛ができたと考えられています。綿毛のようなダウン状の毛を身につけることから、羽毛の獲得が始まりました。
初めは飛行のための羽毛ではありませんでした。風を切って飛行するのに適したものではなかったのです。
なぜ、恐竜は羽毛をもつことになったのでしょう。この疑問に答えるため、現在、研究が進められています。
恐竜が羽毛を獲得した初めの目的は、保温のためだったと考えられています。特に、気温の変化を受けやすい身体の小さな恐竜が、羽毛をもつに至りました。 体温を一定に保つことは、季節や昼夜を問わず活動的に動くことを助けます。このことは、他の変温性動物に比べて大きなアドバンテージ(有利性)となったことでしょう。 オヴィラプトル類の仲間には抱卵した状態で化石がみつかっています。卵を温める習性をもつものもいたようです。
しかしながら、恐竜が栄えた中生代を通じて、世界は温暖な気候であったこともわかっています。
保温のためだけに羽毛の発達を促すことはできなかったとも考えられています。
羽毛は"保温"の他にも、多くの役割をもっていたと推定されています。
かつて、「化石から色はわからない」とされてきました。化石化する過程で、骨は鉱物(ミネラル)と置き換わるため色そのものは残らないからです。
しかし2010年、中国から「獣脚類の恐竜-シノサウロプテリクスの羽毛にはメラニン色素を含む細胞内小器官-メラノソームが残っており、
色の解析が可能となった」とする論文が提出され、古生物学会に衝撃を与えました。
シノサウロプテリクスは背中から尾にかけて赤を帯びたオレンジ色の羽毛を持っていたことが明らかになったのです。
その後、アンキオルニスなども体色・羽毛色の解析が行われています。
その結果、羽毛恐竜の羽毛は多彩な色をもつことがわかってきました。
現生鳥類と同様、恐竜の羽毛にも異性に対するアピールや同種を見分けるためのディスプレイ、威嚇の役割をもっていた可能性が示唆されています。
外敵から身を守るためなのか、新しい食料・獲物の確保なのかはわかっていませんが、生活圏を樹上にまで広げた小型の恐竜・獣脚類が出現しました。
鋭い爪で木に上り、飛び降りることで、羽毛をまとった手足-"翼"が揚力(ふわっと浮き上がる力)を得ることに気付いた恐竜の仲間がいたことでしょう。
初めは翼をはばたかせる力は無く、グライダーのように空気を貯めて緩やかに滑空・降下する程度だったようです。そこから長い時間をかけて、鳥類への道を歩むことになります。
空中に長く滞在することを選んだマニラプトル類は、羽毛を風切羽へと進化させました。空気を捉えるのに適した羽へと変化したのです。
また、左右の鎖骨を融合させて、<叉骨>と呼ばれる構造を生み出しました。叉骨はやがて、飛ぶための胸筋を蓄えるバネに転用されることになります。
<羽毛の役割 まとめ>
- 身体の保温=高い基礎代謝を支えるための機能
- 抱卵=オヴィラプトルの仲間では、抱卵する親の化石が見つかっています
- 異性へのアピール=シノサウロプテリクスの尾には、オレンジ色の羽毛が生えていたことがわかっています。 現生鳥類が行うように、色彩による婚活・異性へのアピールがあったようです。
- 威嚇=アルキオルニスがもつ光沢のある黒色羽毛は、視覚的に威嚇する機能を備えていたそうです。現生のカラスのようなイメージでしょうか。
- 樹上からの滑空=ミクロラプトルの翼は、上下にはばたくことは出来なかったものの樹上から滑空に役立ちました
鳥類の恐竜起源説
1870年、イギリスのトーマス・ハクスレー博士が「恐竜と鳥の骨格に類似性が多いことから、鳥は恐竜の一部(獣脚類)から進化した可能性がある」との説を提唱しました。 「鳥類の恐竜起源説」です。
ところが、本当にそうであるならば「進化の途中・過程で、鳥類のように羽毛のある恐竜が発見されるはず」ですが、当時はまだそのような化石は発見されていませんでした。 当時の恐竜研究の権威リチャード・オーウェンは「鳥類と恐竜は、系統的に大きく離れたものである」としてトーマス・ハクスレー博士の説を否定し、「鳥類の恐竜起源説」は支持されませんでした。
「鳥類の恐竜起源説」が脚光を浴びたのは約100年後、1964年にアメリカのジョン・オストロム博士が獣脚類-デイノニクスの骨格を調べて報告したことがきっかけでした。
ジョン・オストロムはデイノニクスの骨格を調査した結果、恐竜温血説を唱えていくことになります。
いわゆる「恐竜ルネッサンス」と呼ばれる、恐竜への考え方を大きく変える流れが起こりました。
鳥類に似たデイノニクスの発見・研究によって、それまで人々が描いていた「鈍足でゆっくり活動する恐竜像」は覆され、「俊敏に動き回る恐竜像」が支持されていったのです。
体温を保つ活動的な恐竜と鳥類との関係が議論されるようになりました。
しかし、「恐竜の鳥類起源説」を決定的にするためには、羽毛を持つ恐竜=羽毛恐竜の発見を待たなければなりませんでした。
羽毛恐竜の発見
1996年に発表された論文は、世界を驚かせました。
中国遼寧省にある1億2400万年前の地層から、初めて羽毛の痕跡のある恐竜化石が見つかったのです。
細粒な火山灰が遺骸の上に降り積もることで空気に触れることなく、急激な腐敗が回避された結果、奇跡的に良好な保存状態で化石が残されたと考えられています。
シノサウロプテリクス(Sinosauropteryx)と名づけられた体長1mの恐竜化石には、綿毛の痕跡がはっきりと残っていたのです。
その後、羽毛に見えたこの痕跡はケラチン状の皮膚との見解も出され論争を呼びましたが、現在では「羽毛であったこと」が分かっています。
その後、カウディプテリクス(Caudipteryx)やディロング(Dilong)、ミクロラプトル(Microraptor)など、多くの属で羽毛の痕跡を残す恐竜化石が発見されています。
現在では比較的大型の種からも羽毛恐竜が見つかっており、鳥類との類似性も次々と報告されるに至っています。
「鳥類は恐竜の子孫である - 竜盤目獣脚類のグループから鳥類へ進化していった」ことは定説となっています。
鳥盤目の羽毛恐竜
恐竜は進化の初期段階で[竜盤目]と[鳥盤目]に枝分かれしました。
[竜盤目]のうち[獣脚類]に含まれる系統が、後に鳥類に進化していきます。
2014年、「恐竜はそもそも、初期の段階から羽毛をもっていた可能性がある」ことを示す発見がありました。
鳥類へ向かう系統とは異なる[鳥盤目]の恐竜化石からも、羽毛の痕跡が見つかったのです。
2001年にプシッタコサウルス(Psittacosaurus)(鳥盤目-周飾頭類)の尾から剛毛の跡が見つかっているものの、 羽毛恐竜の発見は鳥への進化系統である竜盤目・獣脚類に集中していました。
ところが、2014年に発見された鳥盤目-鳥脚類クリンダドロメウスによって、恐竜における羽毛獲得について新しい知見が提唱されることになります。 鳥盤目-鳥脚類でありながら、全身を羽毛で覆われていたのです。
クリンダドロメウスには身体の部位によって、短針状の羽毛やダウンフェザー状の羽毛など異なる質の羽毛痕跡が残されていました。
生物史上 羽毛組織の獲得が1度だけ起こったと考えれば、恐竜が竜盤目と鳥盤目に分岐する以前から羽毛を獲得していたことになります。
この発見は、恐竜の多くの種で保温のための羽毛をもっていた可能性を示唆しています。