恐竜の子育て ヘッダー画像

恐竜の子育て

Parenting of dinosaurs

マイアサウラ - 良い母親トカゲ

マイアサウラの親子
マイアサウラの親子

恐竜の子育ての可能性を初めて具体的に示したのが、マイアサウラでした。属名のマイアサウラ(Maiasaura)は、"良い母親トカゲ"を意味します。

体長1m未満のマイアサウラの幼体化石を調べると、まだ十分に歩けるほど脚が発達していないことがわかりました。それにも関わらず、幼い個体の歯が既にすり減っていたことは、巣の中に留まりながら親からエサを運んでもらい、硬い葉などを食べていたことを示唆しています。

また、イタリアで発見された生後数日のスキピオニクス(白亜紀前期の小型獣脚類)の胃には、体長15-40cmのトカゲの化石が残っていました。産まれたばかりの幼体が自分で捕獲したとは考えにくく、親がエサを与えていたことを強く示唆する証拠とされています。

抱卵と父親の育児 ― オヴィラプトル類の汚名返上

オビラプトル類(シチパチ)の卵を抱いた状態の化石
オビラプトル類(シチパチ)の卵を抱いた状態の化石

かつて、獣脚類のオヴィラプトルは、他の恐竜の巣から卵を盗んでいると考えられ、「卵泥棒」という不名誉な名前が付けられました。しかしその後の研究で、巣の上で見つかった化石は、自分の卵を鳥のように抱いて温めていた(抱卵していた)姿であったことが判明し、その汚名は返上されました。

2017年の研究では、オヴィラプトル類の卵殻からビリベルジン(biliverdin)とプロトポルフィリン(protoporphyrin)Ⅸという2種類の色素が発見され、卵が緑青色だったことが分かりました。卵に色が付いているのは、巣を隠す(カモフラージュする)ためであり、親が直接抱卵して温めていたことを強く示唆しています。

さらに2008年には、出産経験のない個体が抱卵していた形跡から「オヴィラプトルはオス(父親)が卵を温めていた可能性が高い」との調査結果も発表されました。ダチョウなど一部の現生鳥類にもオスが抱卵する種がおり、オヴィラプトル類は既にこの「イクメン」の習性を獲得していたのかもしれません。

集団での子育て ― 巨大な営巣地(コロニー)

恐竜の子育ては、個々の家族だけで行われていたわけではありませんでした。中国遼寧省では、角竜プシッタコサウルスの大人1体と子供34体の化石が一緒に見つかっています。幼体の平均全長は23cmで、親と思われる成体の全長は1m以上と推定されており、大人と子供が集団生活を送っていたことが伺えます。

プシッタコサウルスの巣の化石
プシッタコサウルスの巣化石

さらに、マイアサウラやアルゼンチンで発見された竜脚類などは、同じ場所に多数の巣を作る巨大な営巣地(コロニー)を形成していたことが分かっています。これは、外敵から卵や子供たちを共同で守るための合理的な戦略だったと考えられます。

すべての恐竜が子育てをしたかは不明ですが、発見された証拠は、一部の恐竜が現代の鳥類のように卵を温め、エサを運び、時には集団で協力し合うという、多様で献身的な子育てをしていた可能性を示しています。