インロン(インロング)とは
| 学名(属名) | Yinlong |
| 名前の意味 |
隠龍
映画"Crouching Tiger, Hidden Dragon(グリーン・デスティニー)"にちなむ |
| 分類 | 鳥盤目・周飾頭類 (基盤的角竜類) |
| 全長 | 約1.2m |
| 体重 | 約10kg |
| 食性 | 植物食 |
| 生息時期 | ジュラ紀後期 (約1億6120万年前〜1億5570万年前) |
| 発見地 | 中国・新疆ウイグル自治区 ジュンガル盆地 |
| 下分類・種名 | Yinlong downsi |
| 論文記載年 | 2006 |
| 記載論文 |
A basal ceratopsian with transitional features from the Late Jurassic of northwestern China.
Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 273. by Xu, X., Forster, C.A., Clark, J.M., and Mo, J. 2006. |
インロンの特徴:進化のミッシングリンク
インロンは、ジュラ紀後期の中国に生息していた小型の植物食恐竜です。現在知られている中で最も古い「角竜類(ケラトプス類)」のメンバーですが、後の時代に見られるような巨大なフリル(首飾り)や顔の角はまだ持っていませんでした。
インロンの最大の特徴は、その頭骨にさまざまなグループの恐竜の特徴がモザイクのように混ざり合っている点です。この特異な姿は、恐竜の進化の歴史において長年の謎であった「ミッシングリンク(失われた環)」を埋める、極めて重要な発見となりました。
頭の骨に特徴的な装飾(角やフリル、ドーム状の骨など)を持つ植物食恐竜のグループ。大きく分けて、トリケラトプスなどの「角竜類」と、パキケファロサウルスなどの「堅頭竜類」が含まれます。
インロンの頭骨には、以下のような特徴が同時に存在していました。
- 角竜類の特徴: 上顎の最前端には、角竜類を定義する最も重要な骨である吻骨(ふんこつ)がありました。これは、後のトリケラトプスなどのオウムのようなくちばしへと繋がる構造です。
- 堅頭竜類の特徴: 頭の後方にある鱗状骨(りんじょうこつ)の縁には、パキケファロサウルスのような堅頭竜類に典型的な、こぶ状の装飾が並んでいました。
- さらに古い祖先の特徴: 前上顎骨には、ヘテロドントサウルス科のような、より原始的な恐竜が持つ長く鋭い「犬歯」のような歯を3本残していました。
これらの特徴から、見た目が全く違う「角竜類」と「堅頭竜類」が、実は非常に近い親戚であり、共通の祖先から分かれて進化したことが示されたのです。
角竜類の恐竜だけが上顎の先端に持つ、特別に進化した骨。植物を刈り取るための強力なくちばしの土台となります。
インロン:身体の構造と生態
インロンは、白亜紀に繁栄した大型の角竜類(四足歩行)とは異なり、強靭な後肢を持ち、二足歩行で機敏に歩行していました。体重は最大でも約10kg程度と小さく、森の中で大型の肉食恐竜から逃れながら、複雑な地形を素早く移動できたと考えられています。
骨の微細な構造を調べた研究によると、インロンは巨大な竜脚類や獣脚類のような急激な成長はせず、現生のワニなどよりは早いものの、比較的ゆっくりとしたスピードで成長していたことがわかっています。
胃石を使った消化メカニズム
インロンは植物食恐竜でしたが、後の進化した角竜類のように植物を細かく切り刻むための複雑な歯(デンタルバッテリー)をまだ持っていませんでした。
その代わり、お腹があった場所から7個の石が発見されており、これらは胃石(いせき)と呼ばれます。インロンは飲み込んだ石を使い、胃の筋肉の動きで硬い植物の繊維をすりつぶして消化を助けていました。
脳と感覚機能
CTスキャンを用いた脳の復元研究から、インロンは比較的高い聴覚を持ち、頭の基本姿勢は少し上(水平より約10度)を向いていたことが判明しています。この姿勢は、二足歩行で広い視野を確保し、警戒しながらやや高い位置の植物を食べるのに適していました。
恐竜や一部の鳥類が、食べ物を胃の中ですりつぶすために飲み込む小石のこと。歯の機能が十分に発達していない動物が、消化を助けるために利用します。
記載論文と発見
出典:A basal ceratopsian with transitional features from the Late Jurassic of northwestern China. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 273. by Xu, X., Forster, C.A., Clark, J.M., and Mo, J. 2006.
2004年、中国・新疆ウイグル自治区のジュンガル盆地に位置する五彩湾(ウツァイワン)地域の石樹溝層で、初めてのインロンの化石が発見されました。この発見は、中国と米国の国際共同古生物学調査隊による成果でした。
種小名の「downsi(ダウンシ)」は、中国での数々の古生物学調査に参加し、本調査の直前である2002年に逝去した著名な古生物学者ウィル・ダウンズ(Will Downs)氏への哀悼の意を込めて名付けられました。