アルバートサウルス

アルバートサウルス

Albertosaurus

アルバートサウルスとは

学名(属名) Albertosaurus
名前の意味 アルバータ(カナダの州名)のトカゲ
Alberta(アルバータ州の)[地名]-saurus(トカゲ)[ギリシャ語]
分類 竜盤目・獣脚亜目・ティラノサウルス科・アルバートサウルス亜科
全長 約9m
食性 肉食
生息時期 白亜紀後期(約7000万年前)
下分類・種名 Albertosaurus sarcophagus
論文記載年 1905
属名の記載論文 Osborn, H. F. (1905). Tyrannosaurus and other Cretaceous carnivorous dinosaurs. Bulletin of the AMNH, 21(14), 259-265.

ティラノサウルスの俊敏な親戚

アルバートサウルスの頭骨化石
頭骨化石(2009年撮影)

アルバートサウルスは、最も有名なティラノサウルス・レックスの近縁種にあたる、ティラノサウルス科の大型肉食恐竜です。ティラノサウルスよりも数百万年早く出現し、自らがいた時代の生態系の頂点に君臨していました。

ティラノサウルスと比較すると、アルバートサウルスの体格は全体的に軽量で、より細身のプロポーションをしています。特に後脚が長く、体重に対して大きな比率を占めていたことから、ティラノサウルスよりも俊敏で、速く走ることができたと考えられています。この体格の違いは、狩りのスタイルにも影響を与え、より機動力を活かしたハンターであった可能性を示唆しています。

群れの謎と成長の軌跡

アルバートサウルスの切手
アルバートサウルスの切手

アルバートサウルスの生態を解き明かす鍵は、カナダ・アルバータ州で発見された「ドライ・アイランド・ボーンベッド」にあります。この驚くべき化石産地からは、26体以上もの、異なる年齢のアルバートサウルスの化石が一度に見つかりました。この発見は、彼らの生態に関する2つの大きな可能性を示唆しています。

一つは、彼らが群れで行動していたという可能性です。様々な年齢の個体が一緒に見つかったことは、アルバートサウルスが単独ではなく、家族などで構成された「パック」と呼ばれる群れを形成していたことを強く示唆します。この「パックハンティング説」では、若い個体が獲物を追い込み、年長で力の強い個体がとどめを刺すといった、高度な協力体制で狩りを行っていたと考えられています。

もう一つの大きな成果は、成長過程の解明です。様々な年代の骨が揃っていたおかげで、骨の成長線から彼らの一生を追うことができるようになりました。研究によると、2歳で全長約2m・体重50kgほどだった個体は、10代(12〜16歳頃)に年間120kg以上も体重が増える急激な「成長スパート」を経験します。そして20歳を迎える前に成体となり、約30年の寿命を全うしたと推定されています。

生息環境と獲物

アルバートサウルスの歯化石
アルバートサウルスの歯(2016年撮影)

アルバートサウルスが生きていた白亜紀後期の北米大陸西部は、内陸に海が広がり、その沿岸は温暖で湿潤な気候でした。広大な氾濫原や森林が広がり、多様な恐竜が生息する豊かな環境でした。

アルバートサウルスの歯は、ティラノサウルスと同様に太く頑丈で、ナイフというよりは杭に近い形状をしていました。これにより、肉を切り裂くだけでなく、獲物の骨を砕くほどの強力な咬合力を生み出していたと考えられています。
さらに、アルバートサウルスには「異歯性(いしせい)」という特徴が見られます。これは、口の中の場所によって歯の形や役割が異なることを意味します。顎の前面にある歯は断面がD字型で比較的小さく、獲物をしっかりと掴んで肉を骨から引き剥がすのに適していました。一方、側面にある歯はより大きく、獲物に致命的なダメージを与えるための強力な武器として機能していました。このように歯の役割を分担することで、効率的に狩りを行っていたのです。

このような環境で、アルバートサウルスは頂点捕食者として君臨し、主にハドロサウルス類(エドモントサウルスなど)を獲物としていたと考えられています。群れで狩りを行うことで、自分たちよりも大きな角竜などを襲うこともあったかもしれません。

群れ、共食い

アルバートサウルスの切手
アルバートサウルスの切手

群れ仮説への反論

ドライ・アイランド・ボーンベッドから様々な年齢の個体がまとまって発見されたことは、彼らが群れで行動していたという「パックハンティング説」の強力な証拠とされています。
しかし、科学の世界では常に別の可能性が探られます。例えば、「あれは群れの化石ではなく、干ばつなどで水場に集まった個体が次々と死んでいった結果ではないか?」という反論もあります。洪水によって死骸が一か所に集められた可能性も指摘されており、彼らが本当に社会的な群れを形成していたのかについては、今も議論が続いています。

共食いの証拠

アルバートサウルスの化石の中には、他のアルバートサウルスのものと思われる歯形が残されたものが見つかっています。
これは、縄張りや獲物を巡る激しい争いがあったこと、そして時には仲間さえも食料とする「共食い」が行われていた可能性を示唆する、生々しい証拠です。

発見と命名

アルバートサウルスの切手
アルバートサウルスの切手

アルバートサウルスの物語は、1884年にカナダの地質学者ジョゼフ・ティレルが、石炭層を探している最中に偶然、不完全な頭骨を発見したことから始まります。しかし、この時点ではまだその重要性は完全には理解されていませんでした。

その後、1905年にアメリカの著名な古生物学者ヘンリー・フェアフィールド・オズボーンがこの化石を研究し、新種の肉食恐竜として正式に「アルバートサウルス・サルコファグス(Albertosaurus sarcophagus)」と命名しました。「サルコファグス」とは「肉を食べるもの」という意味で、その生態にふさわしい名が与えられたのです。

アルバートサウルスの研究史において最も重要な発見は、化石ハンター、バーナム・ブラウンが率いるチームが1910年に発見した「ドライ・アイランド・ボーンベッド」です。この発掘地からは、多数の個体が見つかっており、アルバートサウルスの成長や社会構造を解き明かすための、世界で最も重要な手がかりとなっています。