恐竜が絶滅した理由
お勉強 / 恐竜のしっぽ
6600万年前の隕石衝突
鳥類以外の恐竜は、白亜紀末(6600万年前)に絶滅しました。
「6600万年前(*1)、地球に何があったのか」、「恐竜が滅びたきっかけは何だったのか」、恐竜への関心と共にメディアを通じてよく目にする議論です。
その答えの最有力候補は、「隕石の衝突」です。
恐竜が絶滅した中生代白亜紀とその後に続く新生代古第三紀の地層の境には、イリジウム濃度が異常に高い層があります。他の層に比べて20-160倍のイリジウム濃度が観測されています。
イリジウムというのは、地球の地殻にはほとんど存在しない、隕石に多く含まれる物質です。この層を「K-Pg境界」と呼んでいます(以前は、「K-T境界」と呼ばれていました)。
「K-Pg境界には衝突変成石英という特殊な粒子が含まれていて、これがヨーロッパ・太平洋よりも中央アメリカ付近の粒子が大きいこと」、「メキシコ湾岸、カリブ海周辺のK-Pg境界には、津波による堆積物が多く含まれていること」から、以前から「白亜紀末、中央アメリカ付近に巨大な隕石が衝突した」ことはわかっていました。
「恐竜絶滅の原因は、隕石衝突」説は広く支持されてきましたが、火山活動説や温度低下説など様々な反論もありました。
「恐竜絶滅の原因=隕石衝突」説を決定的にしたのは、1991年、メキシコのユカタン半島沖に直径180キロメートルのクレーター(隕石の落下跡)が見つかったことです。
チチュルブクレーター(Chicxulub crater)と呼ばれるこの跡に残る試料を分析した結果、白亜紀末に落下した隕石の跡・K-Pg境界の原因となったことがわかったのです。
これを調査することによって、科学的に恐竜絶滅のシナリオが描きやすくなりました。 世界中のK-Pg境界300箇所以上でイリジウム異常が観察されています。
(*1)かつて白亜紀(中生代)末と古第三紀(新生代)の境を"6550万年前"としていましたが、2013年の国際層序委員会発表では"6600万年前"に変更されています。 これは、2015年に惑星科学を専門とするポール・レニー教授が隕石の衝突時期を精密に計測した結果-"約6604万年(誤差±3万年)"とおおよそ合致しています。
恐竜絶滅のシナリオ
有力視されている恐竜絶滅のシナリオは、次の通りです。
- メキシコ-ユカタン半島沖に落下した直径10-15キロメートルにも及ぶ隕石は、大量の塵をまきあげました。
- 大気中の塵は約2年間太陽光を遮り、陸上・海面付近の光合成植物(特に、多くの光を必要とする被子植物)が育たなくなりました。
この時期、光を必要としない菌類や少量の光で育つシダ植物が繁殖したことも化石からわかっています。 - 被子植物が育たなくなったことから、これを主食としている植物食恐竜が絶滅しました。
- 植物食恐竜が絶滅したことによって、これを捕食している肉食恐竜が絶滅しました。
特に、大量の食物を必要とした大型種から消えていったと考えられます。
また、隕石が衝突したユカタン半島沖の岩石には炭酸塩・硫黄が多く含まれていました。
衝突で岩石中の硫黄が高温になり蒸発し大量の硫酸ガスが発生、酸性雨として降り注いだことがわかっています。
この強い酸性雨が食物連鎖を破壊して、直接的な絶滅の原因となった可能性も提唱されています。
太陽光が遮られたことによって地球の気候は10~28度ほどの寒冷化が進み、急激な寒冷化も植物・動物に影響を与えたことでしょう。
一時的に姿を消した被子植物は花粉・種などの状態で保存され、地球環境が落ち着いた後に復活を遂げることができました。
隕石衝突の状況
6600万年前にメキシコ-ユカタン半島で起こった状況も、多くの解析から分かってきました。
直径10-15キロメートルの隕石は、地表に対して約30度の角度で落下しました。 北北西の方向に向かって衝突したため、主に北米の方向に塵を巻き上げたことがことがわかっています。
生物の絶滅率が最も高かったのが北米であったことも、隕石の衝突が生物の大量絶滅を引き起こしたと考える根拠のひとつになっています。
衝突速度は秒速20キロメートル(馴染み深い"時速"に換算すると、72000km/hです。新幹線の最高速度が約300km/hですので、その速さは驚異的です)。
衝突時のエネルギーは、広島に投下された原子爆弾の約10億倍に及びます。
衝撃で立ち上った噴流の温度は摂氏10000度に達し、地表面温度は260度となりました。
巻き上がった高温の塵は、発火した状態で森林に降り注ぎます。各地で山火事が発生したでしょう。
衝突による地震の規模は、マグネチュード11以上。海底では地滑りが発生し、高さ300mの津波が押し寄せます。 地球規模で広範囲に影響を与えるほどの大災害であったことが分かっています。
2022年英の科学誌Natureに掲載された論文によると、隕石が衝突した季節は北半球で春(南半球では秋)だったと推定されています。
カメやワニが生き残った理由
6600万年前の隕石衝突と、それによって引き起こされた一時的な光合成植物の死滅は、恐竜を含む多くの生物を絶滅させました。
では、「恐竜が絶滅して、カメやワニ、小さな哺乳類が生き残った理由」はどこにあるのでしょう。
それは、[生息地]、[光合成植物への依存度]、[体の大きさ]によって説明されています。
白亜紀末の大量絶滅では、陸上に生息していた生物の90%が姿を消したのに対し、河川や沼などの淡水に生息していた生物では10%しか絶滅していないのです。
光合成植物を底辺とする食物連鎖の他に、河川・沼などの淡水環境には腐食連鎖が発達しています。
落ち葉や腐食した木、動物の死骸や昆虫・地中生物などを底辺とするエネルギーの連鎖です。
腐食連鎖の中に含まれていた生物には、「活きのいい植物・動物がいなくなったこと」がすぐに壊滅的なダメージにはなりませんでした。
隕石衝突直後に菌類やシダ植物が異常な繁殖をみせていることからもわかります。
彼らにとって、数年間の光合成植物死滅がすぐエネルギーの摂取源がなくなることではなかったのです。
この連鎖の中にカメやワニが属していました。
小さな哺乳類(ネズミの仲間)など陸上生物にも生き延びることに成功した種がいます。 体の小さいことが、厳しい環境を生き延びることに貢献しました。「体が小さい」ということは、"必要とする食物が少ないこと"、"若い時期からの繁殖を可能にします(世代交代が早い)"。また、前述のとおり隕石衝突が秋だった南半球では、巣穴で冬眠に備えていた哺乳類や爬虫類には影響が少なかったのかもしれません。 しかし、決して彼らも無傷だったわけではありません。カメやワニ、ネズミの一部の種が絶滅し一部の種が残り、その後の繁栄につなげることができたのです。
その他の 絶滅説
現在では「隕石衝突原因説」が最も有力な説となっていますが、他にも白亜紀末の大量絶滅の説明を試みる説があります。
その主なものは、「火山噴火説」と「斬進的絶滅説」です。
火山噴火説とは、白亜紀末に続いた火山活動によって環境破壊が起こったとする説です。
火山噴火によってもイリジウムの異常密集が確認できることと、インドのデカン高原に白亜紀末に形成された洪水玄武岩と呼ばれる火山活動の証拠が見つかることを根拠にしています。
隕石落下とほぼ同時-約6604万年前に溶岩流出が起こったようです。2015年に発表された研究成果によると、隕石の落下が溶岩流出の原因となった可能性についても示唆されています。
斬進的絶滅説とは、種としての恐竜自体が徐々に数を減らしていった「隕石の衝突と恐竜の絶滅は無関係(または、とどめをさしただけ)」とする説です。
この説を提唱する研究グループは、恐竜30種の数を調べて、K-Pg境界までに個体数が減っていたことを根拠にしています。
海の水準が変わり恐竜の生息に適した陸地が狭くなったために種の個体数が激減し、火山活動などの環境変化に耐えられるだけの個体数が保てなくなったと説明しています。
「火山噴火説」も「斬進的絶滅説」も、根拠の不十分・矛盾などから説得力がなくなってきています。 メキシコ-ユカタン半島沖のチチュルブクレーターからの分析結果が、「隕石衝突原因説」に確固たる地位を与えているのです。